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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)11480号 判決

原告

富士通商株式会社

右代表者

池田寛

右訴訟代理人弁護士

柳原武男

右輔佐人弁理士

斉藤侑

被告

株式会社 大都製作所

右代表者

木原茂

右訴訟代理人弁護士

藤本博光

右輔佐人弁理士

秋元輝雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一、原告

「(一) 被告は、別紙物件目録記載のパチンコ球用計数装置を製造し、販売してはならない。

(二) 被告は、原告に対し、金一、二九六万円及びこれに対する昭和四七年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は、被告の負担とする。」

との判決及び第二項について仮執行の宣言を求める。

二、被告

主文同旨の判決を求める。

第二  請求の原因

一、原告の権利

(一)原告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)について、実用新案権者訴外池田寛との間に昭和四六年九月一六日範囲全部の専用実施権設定契約をし、同年一一月一七日その旨の登録をした専用実施権者である。

考案の名称 パチンコ球用計数器

出願 昭和三八年二月二〇日

公告 昭和三九年一〇月二二日

登録 昭和四〇年五月二二日

登録番号 第七六九二〇一号

(二)  本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「複数個の歯1を形成せる回転車2の一部分をパチンコ球流通樋3の中にのぞませ、該パチンコ球流通樋3の内側断面を角形としたことを特徴とするパチンコ球用計数器。」

二、本件考案の要件と作用効果

(一)  本件考案は、次の要件からなるパチンコ球用計数器である。

(1) 複数個の歯を形成せる回転車の一部分をパチンコ球流通樋の中にのぞませること

(2) 該パチンコ球流通樋の内側断面を角形としたこと

(二)  本件考案の作用効果は、

(イ) 前記要件(1)の構造により、パチンコ球一個がパチンコ球流通樋を流れることにより回転車の歯一個分を確実に回転させ、

(ロ) 前記要件(2)の構造により、パチンコ球とパチンコ球流通樋との接触部を従来のものに比較して少なくし、パチンコ球がスムーズに流れるので、能率的にパチンコ球を計数することができる

点にある。

三、被告の計数装置

(一)  被告は、別紙物件目録記載のパチンコ球用計数装置(以下、「被告製品」という。)を業として製造し、販売している。

(二)  被告製品は、次の構造を備えている。

(1)' 通路18は、

(a)(イ)プレート11と

(ロ) 軸受板17と

(ハ) 軸受板17の一部を延長17'し、該延長部をほぼ直角に折り曲げたガイド板19と

(ニ) 鎖車状駆動輪14と

の間に形成されており

(b) ガイド板19はプレート11の表面に対して垂直になるよう位置している。

(2)'鎖車状駆動輪14を通路18にのぞませている。

四、本件考案と被告製品との対比

(一)  被告製品の構造(2)'の鎖車状駆動輪14は、複数個の歯を形成せる回転車の一種であり、通路18は、パチンコ球が通るものであつてパチンコ球流通樋といえるので、被告製品の(2)'の構造は、本件考案の(1)の要件に該当する。

(二)  被告製品の通路18は、前記(1)'の構造から明らかなように、その内側断面は角形となつているので、被告製品の(1)'の構造は、本件考案の(2)の要件に該当する。

以上のように、被告製品は、本件考案の要件(1)、(2)を具備しているから、その作用効果も、本件考案の作用効果と同一である。

よつて、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属する。〈中略〉

第三  請求の原因に対する答弁及び被告の主張

一、請求の原因に対する答弁〈略〉

二、被告の主張

(一)1  本件考案の要件は、請求の原因第二項の(一)に記載のとおりであり、その作用効果は、同項(ニ)の(ロ)に記載のとおりである。

そして、本件考案における「パチンコ球流通樋」とは、明細書の「考案の詳細な説明」欄に、「従来のパチンコ球計数器はパチンコ球の流れる樋の内側断面が円形であつたため、樋の内側とパチンコ球との接触面が増加し、流れの抵抗が大きくなり、計数能率が低下」したのを、本件考案は、「パチンコ球の流れの抵抗を減少せしめんとする」ものであり、本件考案によれば、「パチンコ球8がパチンコ流通樋3内に通る際、そのパチンコ球8と流通樋3の接触部が、前記従来のものと比較して少くなり、能率的に計数することが出来る。」との記載があるところよりすれば、パチンコ球の流れる樋であり、しかも、そのパチンコ球の流れにおいて樋の内側との接触面の抵抗を考慮しなければならない長さの樋であることが明らかである。従つて、この流通樋は、相当程度の長さが要求される。

2  被告製品の構造及び作用効果は、次のとおりである。

(1) 排出樋5に流れこんだパチコン球(排出球)は、断面かまぼこ形の球受部材21を流れて、同球受部材とは間隔をおいて設けられたガイド板19の通路18にのぞんだ鎖車状駆動輪14に当接する。このガイド板19は、パチンコ球を駆動輪14の歯のピツチ間に確実に捕球するためのガイドの役目と計数後のパチンコ球を方向転換させるためのもので、軸受板17を折り曲げて鉛直線に対して上向きに二五度の角度で傾斜し、上方にその最長部分で二〇ミリメートル延びているが、軸受板17の通路18に面する延長部17'の下部には半円形にえぐり取つてあるえぐり部分Yがあり、その部分の通路18の反対側にはプレート11に形成された方向転換用の舌片30がある(別添参考図面各図参照)。

(2) パチンコ球は、ガイド板19の通路18において、駆動輪14の歯と、駆動輪が参考図面第Ⅱ図の実線で示した位置にあるとき、まず当接する。この位置におけるパチンコ球Faがガイド板と当接する位置をC点とし、ガイド板19の下端をA点とすれば、AC間の距離は12.5ミリメートルである。ついで、パチンコ球は、舌片30が形成されている当初の位置D点まで来ると、すぐに舌片30に添つて方向を転換し、えぐり部分Yから軌跡Xを画いて外部に排出される。D点は、A点から八ミリメートル上方にある(参考図面第Ⅱ・Ⅲ図参照)。このD点とA点との間のパチンコ球の流通路は、二画で構成され角形をなしていない。従つて、パチンコ球が通路18においてガイド板19に接触している距離は、CD問の4.5ミリメートルにすぎない。

なお、パチンコ球Faを受けた駆動輪の歯は、パチンコ球がえぐり部分から排出されるとき、参考図面第Ⅱ図の点線で図示した位置まで回動するが、駆動輪がここまで来るとアンクル装置34によつて実線図示の位置まで補正され、続いて来るパチンコ球と当接する次の歯は実線図示の位置にあることになる。

(3) 次に、被告製品においては、ガイド板19を鉛直線に対して二五度の角度に傾斜させているが、これはパチンコ球の垂直方向への落下による全重力が駆動輪14に作用して駆動輪が必要量以上に回転することを防止するとともに、確実に駆動輪の歯のビツチ間にパチンコ球を捕球させて計数させるためである。また、駆動輪14が直接計数器13に軸設されておらず、エンドレスチエーン28を介して計数器を作動するように構成されているが、これはエンドレスチエーンを介在させることによつて駆動輪の回動抵抗を増加させて駆動輪の空廻りを防止するためである。すなわち、被告製品は、計数を確実に行わせるために、右の構造により抵抗を附加しているのである。

3(1)  右に述べたように、被告製品にあつては、駆動輪14の一部をのぞませた通路18においてガイド板19がパチンコ球と接触する距離は4.5ミリメートルである。このような短距離にあつては本件考案でいうパチンコ球の流れの抵抗は全く無視されるものであるから、パチンコ球の流れの抵抗を問題とする長さが要求される本件考案の流通樋と被告製品の通路18とは同一のものとはいえない。

被告製品において本件考案の流通樋に該当するのは、球受部材21であるといえるが、この球受部材の断面はかまぼこ形であつて角形ではなく、回転車の一部がのぞんでいない。

従つて、被告製品は、本件考案の要件を欠くものである。

(2)  作用効果の点においても、本件考案が、パチンコ球と流通樋との接触部を少なくしてパチンコ球の流れの抵抗を減少させることにより計数を能率的に行うのに反し、被告製品にあつては、ガイド板を傾斜させて設けることによつて駆動輪がパチンコ球を捕球することを確実にし、エンドレスチエーンの採用によつて駆動輪の回動抵抗を増加させ、このように抵抗の減少を犠牲にすることによつて誤計数をなくし、確実な計数効果をあげている点において、両者は異なるものである。

(二)1  本件考案の技術的範囲を公知技術との対比において考察すると次のとおりである。

本件考察の実用新案登録出願前の昭和三七年一一月一三日に登録されたパチンコ玉計数器用ナンバーリングの意匠(意匠登録第二一九八九四号)の意匠公報によれば、本件考案の要件を具備した「複数個の歯を形成せる回転車の一部分をパチンコ球流通樋の中にのぞませ、該パチンコ球流通樋の内側断面を四角形としたことを特徴とするパチンコ球用計数器」が示されている。

この登録意匠の意匠公報の発行日は昭和三八年八月七日であつて、本件考案の出願の日より遅れるが、意匠が登録されれば自由に第三者はその意匠登録に関する書類等の閲覧ができるのであるから、右登録意匠は本件考案の出願前に公然知られたものといわなければならない。

右の公知資料よりすれば、本件実用新案権は実質的に無効であり、現に昭和四七年七月一三日本件考案の登録を無効とする旨の審決がされている。しかし、実質的に無効な権利であつても、まだ無効審決が確定していない本件においてその権利性を認めなければならないとすれば、本件考案の技術的範囲は公知技術との比較において最小限に限定すべきである。すなわち、本件考案の登録請求の範囲の「パチンコ球流通樋3の内側断面を角形としたこと」との記載は、公知の内側断面を四角形としたもの以外のものと解すべきであり、その流通樋の断面は、本件考案の明細書の図面第五図とその説明に示されている八角形のものに限定される。

2  被告製品の通路18が、仮りに本件考案の流通樋に当たるとしても、その断面は公知の四角形に近いものであつて、本件考案の要件である八角形の断面の流通樋には該当しないことは明らかである。〈以下、省略〉

理由

一原告が本件実用新案権についての範囲全部の専用実施権者であること、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること及び被告の製造販売したパチンコ球用計数装置(被告製品)が別紙物件目録記載のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二右当事者間に争いのない実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、次の要件からなるパチンコ球用計数器であると認められる。

(1)  複数個の歯を形成せる回転車の一部分をパチンコ球流通樋の中にのぞませること

(2)  パチンコ球流通樋の内側断面を角形としたこと

三被告製品が、請求の原因第三項の(二)において原告の主張する(1)'、(2)'の構造を備えていることは、被告製品を表示するものであること当事者間に争いのない別紙物件目録の説明書及び図面から明らかである。

四原告は、被告製品における右認定の通路18が本件考案にいうパチンコ球流通樋に該当すると主張し、被告は、被告製品において右流通樋に該当するのは球受部材21であると主張するので、この点について考察する。

(一)  成立に争いのない甲第一号証の二(本件実用新案公報)及び弁論の全趣旨によれば、本件考案にかかるパチンコ球用計数器はパチンコ機の作動により同機から排出されるパチンコ球を計数するためのそれ自体としてまとまつた一つの装置であつて、パチンコ機に附加されて用いられるものであることが認められるが、このことと右甲第一号証の二の「考案の詳細な説明」の記載及び各図面を参照すれば、本件考案にかかるパチンコ球用計数器においては、パチンコ機から排出されたパチンコ球が計数器に受け入れられ、ついて回転車の歯に当接し回転車を回動させ、その後計数器外に排出されるまでの間、パチンコ球は終始流通樋中を通過するものとして構成されていることが認められる。

このことからすれば、本件考案にいうパチンコ球流通樋とは、計数器の構造部分の一つとして、パチンコ機から排出されるパチンコ球を受け入れ、これを導いて計数器内を通過させ、その間に回転車を回動させ、その後これを計数器外に排出するまでのパチンコ球の通路を形成する部分をいうと解するのが相当である。

原告は、本件考案のパチンコ球流通樋とは、一つのパチンコ球で回転車の歯を移動しつつあるとき、そのパチンコ球が通る部分をいうと主張し、その根拠として本件考案の明細書中の「パチンコ球8をパチンコ球流通樋3に沿つて……流し、その際の連動により、歯1を移動」するとの記載部分を挙げるが、本件実用新案公報(前掲甲第一号証の二)の「考案の詳細な説明」の記載に照らせば、原告の引用する右記載部分は本件考案においてパチンコ球は流通樋に沿つて流れるものであること、その連動の途中においてパチンコ球が回転車の歯を移動させ回転車を回転させることを述べているにすぎないことが明らかであり、これをもつて原告主張のように解すべき根拠とすることはできない。かえつて、同公報において本件考案の構成を説明するものとして掲げられている図面の第一図ないし第四図によれば、「パチンコ球流通樋3」は、原告主張の一つのパチンコ球で回転車の歯を移動しつつあるとき、そのパチンコ球が通る部分のみならず、その前後においてパチンコ球が計数器内を通過する部分を含めて図示されているのである。同公報の全文その他本件全証拠によつても、パチンコ球流通樋の意義を計数器内において「パチンコ球の流れる樋」(本件実用新案公報左欄一六行目)のうち原告主張部分に限定して解すべき根拠はこれを見出すことはできない。原告の主張は採用しない。

(二)  一方、被告製品において、パチンコ機の排出樋から排出されたパチンコ球が被告製品に受け入れられるのはプレート11と球受部材21によつて形成される通路20によつてであり、パチンコ球はこの通路20を通り、ついでプレート11と軸受板の一部の延長部17'とガイド板19と鎖車状駆動輪14の間に形成される通路18を通過するが、この通路18を通過する際駆動輪14の歯に当接しこれを回動させ、その後ガイド板19と舌片30により軸受板の延長部17'に設けられたえぐり部分から被告製品外に排出されるものであることは、別紙物件目録の説明書及び図面並びに被告製品であること当事者間に争いのない検乙第一号証に照らし明らかである。すなわち、被告製品においてパチンコ機から排出されたパチンコ球が被告製品に受け入れられ、駆動輪を回動させた後被告製品外に排出されるまでの間パチンコ球を導き通過させる通路は、右通路20と通路18によつて形成されているのである。

(三)  右の(一)、(二)に述べたことからして、本件考案のパチンコ球流通樋に該当する被告製品の構造は、前記の通路20と通路18であるといわなければならない。

五そこで、被告製品の通路20と通路18が、本件考案の要件(2)の「パチンコ球流通樋の内側断面を角形としたこと」を具備しているかどうかを検討する。

(一)  本件実用新案公報(前掲甲第一号証の二)の「考案の詳細な説明」項の「この考案はパチンコ球計数器の改良に係り、従来のパチンコ球計数器はパチンコ球の流れる軸の内側断面が円形であつたため、樋の内側とパチンコ球との接触面が増加し、流れの抵抗が大きくなり、計数能率が低下する。この考案は上述のような従来の計数器の問題点を解決し、パチンコ球の流れの抵抗を減少せしめんとするためのものである。」(公報一頁左欄一五行目――右欄一行目)、「本案によれば、パチンコ球8がパチンコ流通樋3内に通る際、そのパチンコ球8と流通樋3の接触部が、前記従来のものと比較して少なくなり、能率的に計数することが出来る。」(公報一頁右欄一六行目――一九行目)の記載によれば、本件考案は、流通樋とパチンコ球との接触部を従来のものより少なくし、このことによつてパチンコ球の流れの抵抗を減少させ計数能率を増加させることを目的として、要件(2)の構成を採用したものと解される(ただし、パチンコ球は、球形であるから、もしパチンコ球流通樋の内側断面が円形であれば、両者は一点でしか接触しないのに対し、パチンコ球流通樋の内側断面を角型にすると、パチンコ球との接触点は反つて増え、二点ないし四点となるから、理論的には、流通樋の内側断面を角形にすることによつて、従来の内側断面円形のものよりパチンコ球の流れの抵抗を減少させるということはありえないと考えられる。)。

そして、本件考案の要件(2)を規定する実用新案登録請求の範囲の「該パチンコ球流通樋3の内側断面を角形としたこと」の記載が、本件考案にいうパチンコ球流通樋はその内側断面が角形であるべきことを要求し、内側断面がそれ以外の形をとることを許容する表現を用いていないこと、また、本件実用新案公報(前掲甲第一号証の二)の「考案の詳細な説明」及び図面において流通樋の一部を角形以外のものとした構成は全く示されていないことからすれば、本件考案は、パチンコ球流通樋の全長にわたつてその内側断面を角形にすることを、その所期の目的達成のため必要な構成としているものと解するのが相当である。

(二)  別紙物件目録の説明書及び図面並びに前掲検乙第一号証によると、被告製品の通路20は、プレート11と球受部材21とからなり、通路20の後半部は内側断面がいわゆるかまぼこ形をしていて角形ではないこと、通路20の前半部は内側断面の下部の一方の隅部において曲線状をなし角形でないこと、通路18は、プレート11と軸受板の延長部17'が平行に相対しガイド板19がプレート11の表面に対して垂直になるよう配置されていてその内側断面が角形であることが認められる。

(三)  右に述べたように、本件考案の要件(2)は、パチンコ球流通樋の全長にわたつてその内側断面が角形であることを要求するのに対し、被告製品の通路20には一部その断面が角形でない部分があるから、両者はその構成を異にし、被告製品は本件考案の要件(2)を充足するものとはいえない。

従つて、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属しないといわざるをえない。

六以上説明のとおり、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属しないから、これが属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(高林克巳 牧野利秋 清水利亮)

物件目録〈省略〉

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